椹木(さわらぎ)町通り

丸太町通りから北へ一本入ったところに、椹木町通りがあります。
観光ガイドではあまり大きく扱われないものの、実は京都の商いと食文化の記憶が重なった、味わい深い通りです。大通りの喧騒から外れた場所にあり、歩く速度も自然とゆっくりになります。


椹木町通りという名前に残る、ものづくりの記憶

椹木町通りの名は、「椹(さわら)」という木材に由来します。
サワラはヒノキ科の木で、水に強く、桶や樽、襖の組子、障子の枠など、暮らしの道具づくりに欠かせない素材でした。かつてこの一帯には、そうした木材を扱う店が多く並び、通りの名前として今も残っています。

また、椹木町通りは「上魚棚(かみうおだな)」とも呼ばれた歴史を持ちます。江戸時代、この周辺には生魚を扱う問屋が集まり、京都の台所を支える流通の拠点のひとつでした。現在は静かな住宅地ですが、通りの背景を知ると、かつての賑わいが想像できます。


椹木町通りを語るなら外せない、生麩の老舗「麩嘉」

椹木町通り周辺でまず名前が挙がるのが、生麩の名店「麩嘉」(ふうか)です。
創業からおよそ170年、京都の食文化とともに歩んできた老舗で、今も変わらぬ製法で生麩を作り続けています。

麩嘉の生麩は、しっとりとした口当たりと、ほのかな小麦の香りが特徴。中でも麩まんじゅうは、この店を代表する一品です。笹に包まれた姿は控えめながら、ひと口食べると、生麩ならではのもっちり感と上品な甘さが広がります。派手さはありませんが、京都らしい「引き算の美味しさ」を感じさせてくれます。


茶の湯の世界を支えてきた老舗「柿傳」

もう一軒欠かせないのが「柿傳」です。
享保五年創業の茶懐石の老舗で、長く茶道・表千家と深い関わりを持ってきました。

柿傳の料理は、華美ではなく、季節と素材を大切にした構成が特徴です。茶の湯の世界では、料理もまた“もてなしの一部”。その考え方を今に伝える存在として、椹木町通りの静かな空気とよく調和しています。現在は仕出しやケータリングでも知られ、京都の行事や茶席を陰で支え続けています。


アートが“特別な場所”ではなく“日常の一部”として存在する

椹木町通りのアートは、美術館のように切り離された存在ではありません。民家の一角や町家の奥、普段は静かな建物の中に、ふと開かれた展示空間が現れます。その控えめな佇まいが、かえって作品への集中を促し、作り手の思考や時間の流れを身近に感じさせてくれます。

ギャラリーえがく の前に立つと、まず小さな掲示の言葉に目が留まります。
「どなたもおはいりください……」。
その一文を見た瞬間、「あれ? どこかで聞いたことがある」と、記憶の奥がふっと刺激されました。

宮沢賢治の物語に出てくる、あの猫たちの世界。少し不思議で、やさしくて、境界線があいまいなあの感覚です。招かれているのは特別な人ではなく、たまたま通りかかりの人。

そう思わせる言葉の力に、一気に引き込まれました。

高橋クリーニング店

観光地ではないからこそ、歩く価値がある通り

椹木町通りは、写真映えするスポットが連なる場所ではありません。
けれど、町家の佇まいや人の気配、老舗が自然に溶け込む風景の中に、京都の日常が残っています。

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