
京都伏見で見つけた、明治17年創業の小山醸造
伏見を歩いていると、日本酒の酒蔵だけではなく、昔から続くものづくりの店にも出会う。
そのひとつが、京都市伏見区にある小山醸造。
創業は明治17年(1884年)。今も昔ながらの木桶を使い、醤油を仕込んでいる老舗の醤油屋だ。
店の前まで来ると、なんとも食欲をそそる醤油の香り。
観光地の華やかさとは少し違う、伏見の日常の中にある醤油蔵という雰囲気がいい。

「ツルヒョー」という名前も、なんだか京都らしい
小山醸造の醤油は「ツルヒョー醤油」。
ちょっと変わった名前だけれど、由来を聞くと面白い。
初代創業者の名前に「兵」の字が入っていたことから、縁起のいい「鶴」と組み合わせて「ツルヒョー」と名付けられたそう。
今では、この名前が小山醸造の屋号になっている。
暖簾やラベルに描かれた「ツルヒョー」の文字を見ると、長く続いてきた店らしい風格も感じる。
木桶で仕込み、瓶詰めやラベル貼りまで手作業
小山醸造の面白さは、老舗という看板だけではない。
醤油を熟成させる樽には、昔ながらの木桶を使用。
さらに、醤油を容器に詰めるところからキャップ閉め、ラベル貼り、検品、梱包まで手作業で行っている。
効率だけを考えれば、もっと機械化する方法もあるはず。
それでも昔からのやり方を残しているところに、小さな醤油蔵ならではのこだわりが見える。
工場見学も予約制で受け付けているので、醤油がどんな場所で育っているのかを覗いてみるのも面白そうだ。

淡いのに、ちゃんと旨い「京のはんなり醤油」
小山醸造を知るなら、一度味わってみたいのが「京のはんなり醤油」。
名前の通り、色がとても淡い。
うすくち醤油よりさらに淡い琥珀色で、料理に使っても素材の色を邪魔しにくいのが特徴。
ところが、見た目のやさしさとは裏腹に、口にするとしっかり旨味がある。
吸い物や茶わん蒸し、卵焼き、しらすご飯、湯豆腐など、素材そのものを楽しみたい料理との相性がいい。
京都の料理に「はんなり」という言葉が似合うように、前に出すぎず、でもちゃんと仕事をする。
そんな醤油だ。
濃い味好きなら「二度熟成」も気になる
一方で、淡い醤油とは対照的なのが「二度熟成醤油」。
名前の通り、二度熟成させることで、濃厚な色と深いコクを持つ醤油に仕上げている。
刺身はもちろん、照り焼きや煮物など、しっかり味をつけたい料理にも向いている。
同じ醤油蔵なのに、淡い「はんなり」と濃厚な「二度熟成」。
料理によって醤油を使い分ける楽しさを教えてくれるラインナップだ。
ラーメン店から声がかかる醤油屋でもある
小山醸造には、家庭用の醤油だけでなく、ラーメン店向けの「京都ラーメンかえし」もある。
実際に、ラーメン店から「ラーメンスープ専用の醤油を作ってほしい」と依頼されたことをきっかけに商品が生まれたという。
昔ながらの醤油屋なのに、作っているものは意外と現代的。
卵かけ醤油やだし醤油、ポン酢など、食卓で使いやすい商品も揃っている。
「昔から同じものを作り続ける」というより、醤油を使う人の声を聞きながら、少しずつ新しいものを増やしてきた醤油屋なのかもしれない。

醤油蔵に入って、ちょっと耳を澄ましてみる。
……まさか、醤油樽からクラシックが聞こえてくるとは。
明治17年創業の小山醸造には、ちょっと変わった醤油樽がある。
その名も「音響熟成」。
木樽に加振装置を取り付け、モーツァルトの音楽による微細な振動を醤油に与えながら熟成させるというもの。
つまり、この樽の中の醤油。
毎日モーツァルトを聴いている。
人間でも、朝からクラシックを聴いて育ったら、なんとなく品がよくなりそうだけれど、果たして醤油もそうなのか。
そんな素朴な疑問が浮かぶ。
小山醸造によると、音楽による微細な振動を加えることで、熟成を促し、まろやかで口当たりのよい醤油に仕上げるという。
伝統的な木桶仕込みの醤油に、まさかの「音」。
明治から続く醤油屋さんが、モーツァルトを樽に聴かせている。
この組み合わせ、なかなか京都らしくて面白い。
古いものを守るだけではなく、「こんなことやってみたらどうだろう?」と新しいことにも挑戦する。
小山醸造の蔵には、そんな遊び心がちゃんと残っている。
ちなみに、この醤油を知ってしまうと、家で醤油を使うときにも、
「この醤油、何を聴いて育ったんやろ」
なんて、ちょっと気になってしまう。
https://onkyodirect.jp/shop/g/gFMBOKY001

醤油を味見できるのも小山醸造の楽しみ
小山醸造では、醤油の味見もできる。
普段ならスーパーで何気なく選んでいる醤油も、実際に比べてみると香りや色、コクの違いがよく分かる。
特に「こんなに色が薄いのに、こんなに旨味があるの?」という「京のはんなり醤油」は、ちょっとした驚き。
醤油を買うためだけに訪れるというより、いろいろ味わって「今日はこれにしよう」と選ぶのも楽しそうだ。
京都の老舗は、昔のままでは終わらない
明治17年創業。
数字だけを見ると、ずいぶん遠い昔の話に思える。
けれど小山醸造を調べてみると、木桶を守りながら、新しい醤油を作り、ラーメン店の要望にも応え、音響メーカーとのコラボまで手がけている。
昔ながらの製法を守ることと、新しいことに挑戦すること。
この二つは、意外と一緒にできる。
伏見の町で長く続いてきた小さな醤油蔵には、そんな「老舗」の面白さが詰まっている。
酒蔵めぐりで歩くことの多い伏見だけれど、少し視線を変えてみると、醤油の香りが漂うこんな場所もある。
京都で買うお土産に迷ったら、名所の名前がついたものではなく、京都の食卓で長く使える一本を選ぶ。
そんなお土産も、なかなか粋だと思う。